記念対談

Commemorative Talk

ベテランの作り手とHERZを振り返ってみよう

1973年創業のヘルツ。創業者である近藤を除き、最もヘルツ歴が長い作り手であるNEZに入社当初のことや製品について、作り手として思っていることなどをざっくばらんに語ってもらいました。
聞き手は、作り手以外で最もヘルツ歴が長いスタッフの小野寺。ヘルツの歴史というよりは、立場・年代の違うスタッフ同士のゆるりとした対談としてご覧下さい。

対談の様子

小野寺(左) 50周年記念の対談ということで、どんな内容をお届けしようか悩みました。色々とアイディアは出ましたが、今回はNEZさんにお話を聞きたいと思います。
それではNEZさん、よろしくお願いします。

NEZ(右) はい。ヘルツのNEZ(根津)です。よろしくお願いします。

小野寺 創業者の近藤さんを除いて最もキャリアの長い作り手がNEZさんですよね。
1985年に入社されたと聞いています。ちなみに私は1983年生まれです。

NEZ そうですね。長く働いているので、今いるスタッフの中には僕がヘルツに入った以降に生まれた者も多いので、ビックリです。

小野寺 まさに僕がそうですね。NEZさんからみたらお子様ですね(笑)。

NEZ そんなことはないけど(笑)。まあ昔のヘルツと今のヘルツは当然ながら色々違うので、その時間(時代)全てを過ごした人は少ないよね。

小野寺 ですね。自分も近藤さんからたまに昔の話を聞くぐらいですし。
NEZさんが入った時、ヘルツは何人ぐらいでしたか?

対談の様子
対談の様子

NEZ 創業者の近藤さんがいて、スタッフとしては僕の先輩が3人いたので、計5人ですね。

小野寺 今では考えられない人数ですね。たしかNEZさんの入社のキッカケはBC-13という話を聞いたことがあるのですが、そのあたりの話を聞かせてほしいです。

対談の様子
対談の様子
対談の様子

NEZ よく知っているね。そう、ヘルツに入る前、たまたま読んだ雑誌でクラフト関連の特集をしていて、その中でヘルツが紹介されていたの。
小さな写真だったけど、商品も何点か掲載されていて、その中の一つがBC-13だった。
革の質感とかまでは分からなかったけど、とにかく鞄の顔がすごく印象的だった。
こういうデザインって、世の中にはあんまりないし、この顔を見て、暖かい雰囲気とユーモアをすごく感じた。

NEZ 当時、転職をしようと思ったタイミングがあって、改めて雑誌を読み倒して、やっぱりこれをやるしかない!こういう世界で仕事をしたい!と思ったので、近藤さんにお手紙を書きました。

小野寺 手紙ですか!?

NEZ そう、私はこういう人間ですって感じの。自己紹介とか経歴を書いたりして。いわゆる履歴書だよね。

小野寺 それは初めて聞きました。

NEZ 昔はスタッフの募集自体したことなかったと思う。僕が入って、しばらく後まではみんな勝手に押しかけてきて、仕事したいですってパターンが多かった。
多分今いるスタッフの中でも結構な人数そうやって入った人がいるはず。

対談の様子
対談の様子

小野寺 たしかに僕が入社した前後でもいたと思います。

NEZ 当然だけど、自分に技術があるわけではなくて、絶対これで食っていけるかって確証もなくて、ただやりたい!という半ば衝動みたいなところでヘルツに入った人って多いと思う。

小野寺 採用の方法は変わっても、キッカケや気持ちは今も昔も変わらないようですね。
話を戻して・・・NEZさんが入った頃は、創業期の赤坂時代よりすこし後、旧青山本店を構え始めた頃だと思います。当時はひたすら鞄作りの日々だったのでしょうか?
⇒ヘルツの歴史については下記ページもご覧下さい。
https://www.herz-bag.jp/aboutus/history/

対談の様子
対談の様子

NEZ ひたすら製作ではなかったですね。なぜかというと、そんなに注文がないから。
当時は卸メインだった関係で、売れた物の補充みたいな形がほとんど。だから取引先のお店で売れないと作れない状態でした。
僕は鞄を作りたくて入ったけど、やっぱり仕事としては作る仕事はもちろん、売り込みに行かなきゃいけなくて、いわゆる営業の仕事もしていた。
ヘルツに転職したのは、そういう仕事ではないことをしたかったからだけど、実際入ってみるとその仕事がとても大事だということが分かった。
近藤さんや他の人も基本作る人で、常に鞄を作りたいけど、売れないと作れないので、営業は長いことしていましたね。

小野寺 なるほど。それ以外ではどんなことをしていましたか?

NEZ 売れないときは、みんなで新作作ってお店に持って行こう!ってことをしていましたね。
そういう感じでヘルツは長く動いていたので、今もスタイルは近いよね。
特に決まった時期に新作を作るってことではなく、常時新作募集中みたいな。

小野寺 はい。そういった歴史の中で今の形が出来上がっていったのですね。

NEZ みんな作り手として、何か作りたくて入っているけど、作りたいのはこんなものってイメージはそれぞれあるよね。僕もBC-13を見ていいなと思って入ったから、こういう匂いのするものを自分の手で作りたいって思っていた。
特にはじめの頃は、自分の考えたものを作りたいって思いが強いから。

小野寺 当時でいうと、ダレスバッグシリーズとかギボシ留めショルダー(CK-100)がそれに当たる商品になりますか?

対談の様子
対談の様子

NEZ いや、それらは入社当時に作ったものではないけど、自分の作りたいものには当てはまっているかな。

小野寺 NEZさんが手掛けた定番品は多すぎるので、時系列も分からなくなります(笑)。

NEZ 僕も(笑)。この前ざっくりカタログを見返したけど、現行品でも60型ぐらいあったかな。

対談の様子

小野寺 膨大ですね!例えば、ビジネスバッグだけでも結構な型数がありますよね。

NEZ そうだね。

小野寺 ちょっとお店で見てみましょう。

対談の様子
対談の様子
対談の様子
対談の様子

小野寺 いやー多い!これでほんの一部ですからね。

NEZ なんとなく一個作りだすと作っている最中に、あれ、こんなのもあっていいんじゃないって感じで、次々とアイディアが浮かんでくる時もある。逆に全くでない時もある(笑)。
やっぱり手を動かしていることで、だんだんとイメージが固まってくることが多いかな。

NEZ ビジネスバッグでいうと、今みたいに色々なタイプの革のビジネスバッグを持ち歩くような営業の人たちは多くなかったと思う。黒いナイロンタイプのバッグは多かったけど、ヘルツ的な革の素材とデザインをしたビジネスバッグは当時かなり少なかったと思うよ。

小野寺 80~90年代初めの頃だとそうかもしれないですね。
その当時のヘルツですが、1994年に旧青山本店の近所に工房を増設しています(スタッフ内では中村ビルと呼ばれていた工房です)。

対談の様子
対談の様子

NEZ はい。実はそれ以前にも旧青山本店とは別に近所のスペースを借りて工房にしたりしていたけど、大きく増設したのは、そのタイミングだった。
その工房が出来る時に入社したのが、今やカット(裁断)チームの長でもある作り手の鈴木君だね。

小野寺 ここでベテランの鈴木さんが登場しました。増設当初はB1Fのみでしたが、後々1Fにも増設しています。その一部スペースでFACTORY SHOPをやっていた頃が懐かしいです。

対談の様子

NEZ そうだね。実はB1Fだけの時もファクトリーショップ的なことはしていました。

小野寺 それ昔の写真で見たことがあります。

NEZ 定番品は旧青山本店で販売していたけど、試作品とかを工房に置いていた。

小野寺 これも現在のサンプルルームに繋がっていますね。

対談の様子

小野寺 工房の増設をして作る体制が整い、人員も増えてきたヘルツですが、NEZさん自身が携わる仕事に変化はあったのでしょうか?

NEZ いや、特には変わらず、基本は作ることだけど営業も続けていた。
あと当時は雑誌の通販もあって、ヘルツの商品を取り扱ってもらうことも多かった。
振り返ると露出や販売方法は時代とともに少しずつ変わっていったことになるね。

小野寺 そうですね。ヘルツでは2000年からオンラインショップも始めていますし。
これまで色々お話してもらっていますが、NEZさんいかがですか?

NEZ 古いことは覚えていると言いながら、多分どっかで何か記憶が混じって前後してしまっていることもあるかも(笑)。その点は予めご了承下さい。

対談の様子

小野寺 そうですね。今回は時系列で歴史を語るといったことではなく、NEZさんの記憶にあるヘルツを語って頂く対談なので。皆さんもそのつもりでお読み頂けたら嬉しいです。

NEZ あ、思い出した!また時系列がずれる話になるけどいいですか?

小野寺 もちろん!お願いします。

NEZ バブルってあったじゃないですか。
ヘルツはファッションとかそういう世界とは縁遠いものかなと思っていたけど、バブル期に黒い服が流行った時、なぜか黒いバッグの注文が増えたわけ。
みんなそういう流行に疎かったから、「なんでこんな黒ばっかり注文が入るの!?」って驚いた記憶があります。

小野寺 興味深い話ですね。ヘルツはとくに流行とかは関係なく、作り手が作りたいと思ったものを作っていますが、何かのタイミングで、世の中のトレンドとはまる時があるってことですね。色もそうですが、デザインやバッグの種類も然り。何が起こるか分かりませんね。

NEZ うん。あとすごいよく覚えているのが、これも旧青山本店の時代だけど、すごくお洒落な女性がふらっと入って来てくれて。その人の恰好も黒かったんだけど、その人が2wayビジネスバッグ(BC-16)を手にして、「可愛い~!」って言ったの。

対談の様子
対談の様子

NEZ あれ?このバッグ可愛いかい?と作っている僕らからすると思うところだけど、そういう風に言ってもらえたのがとても印象に残っている。

小野寺 僕にも似たような経験があります。例えば、僕らがゴツイとかクラシックな鞄だと思っているものも、若い年代の方が手に取ってくれた時に「これ可愛い!」って。

NEZ やっぱりヘルツの製品は素材感もそうだけど、暖かみがあるのだろうね。
シャープでキリッというよりかは、暖かくてどことなくユーモラスなところがある。
それが可愛いに繋がっているのかな。
結局のところ、僕らはこうだよって思っていても、見た人がどう思うかが大事なのだろうね。

小野寺 そうですね。なので、トレンドを狙った物は、そこまで作る必要はないかなって思います。
今の話と少し変わりますが、NEZさんはヘルツの作り手として強く意識していることはありますか?

NEZ やっぱり丈夫であってほしいと思います。大きい鞄もそうですし、日々使う小物も同じです。
基本的には素材も同じ、機材も同じ、作る人も同じでやっているので、全てのヘルツ製品は同じ考え方の元に作られており、それが何かというとやはり丈夫さに繋がります。
とはいえ、どんな物でもそうですが、壊れないわけではありません。
長く使うと修理が必要になってきます。それも可能な限り対応するといったやり方も含めて丈夫さの一つかなと考えています。

対談の様子

小野寺 行き着くところはそこですね。現在、定番品だけでも500型を超える製品を展開していますが、その全てが一つのテーマに基づいているから、それぞれ個性がありつつも、共通した何かを感じられるのでしょうね。

NEZ そうだね。これだけ多いとヘルツの全ての商品を見たことがある人はいないかもしれない(笑)。

小野寺 たしかに!定番品以上にサンプルや企画で作ったアイテムは更に膨大なので、それら全てを見てきた人はいないでしょうね。

NEZ なんだろう。こういう仕事って、毎日毎日ある意味同じことの繰り返しの部分ってあるのだけれど、ヘルツの面白いところって、同じことやっているけど、同じものだけ作ってないじゃない。色んなもの作っているから、実は毎日毎日違うことやっているんだよね。
だから日々新しいことを覚えなくちゃいけないし、色々考える必要もある。そういうのは単純に面白い。

小野寺 なるほど。逆に僕は以前から気になっていたのですが、作り手も毎日作っていて、飽きないのかなって。

対談の様子

NEZ 人それぞれだけど、少なくとも僕は飽きていない。
さっきも言ったけど、毎日違うって部分が大きいかな。例えば、同じ革を扱っていても作る時、裁断されて手元にくる革。それは裁断する人たちが考えながら切ってくれているわけで、
渡されたパーツにはこういう風に作って欲しいというメッセージがあったりする。
そういうことを感じながら作ると、やっぱりそれって昨日と今日と同じものを作っていても、同じものではないって思う。そういう意味で飽きないかな。日々違うなと思う。

小野寺 いつも新鮮な気持ちで臨みたいのですが、自分はなかなか出来ていません(笑)。
では、今いる若い作り手たちに何か伝えたいことはありますか。

NEZ そうですね。昔と今では販売の方法も変わって、今はネットも含めて直営店のみで販売をしています。実店舗は工房兼お店なので、使って頂く方の顔がダイレクトに見えます。
自分たちが今作っているものの先にはユーザーがいるわけで、そうした方々の気持ちを思った上で、日々作った方がいいかなと思います。至極当たり前のことを言ってしまいましたが、大事かなと。

小野寺 おっしゃる通りだと思います。

対談の様子
対談の様子

NEZ 工房兼お店として、作るのを見てもらっている以上、やっぱり来て頂いた方には喜んでもらって、また来たくなってもらえるような雰囲気を常に作っていってほしいです。
ちょっと綺麗ごと過ぎる言い方かな(笑)。

小野寺 いえ、そんなことはないです!

NEZ なら良かった。続けてしまうけど、ヘルツは自分たちで作って、自分たちで販売している。
そういったブランドも増えている中、やっぱり僕らが作ったものいいでしょって言いたいし、そういうことを思いながら作るのがいいんじゃないかなと思います。

小野寺 そうですよね。やはり原点が大事ですね。
では最後に。この対談をご覧になっている皆さんへ一言お願いします。

NEZ はい。いつもヘルツの製品をご愛顧頂き、本当にありがとうございます。
ご覧頂いている皆さんなら十分ご承知のことかもしれませんが、ヘルツで使用している革の表情は全て違います。そして、商品一点に対して、一人の作り手が完成までを手掛けています。一点一点に作り手の想いがあったり、そこには癖もあったりします。
同じ人がいないように、同じ商品はなく、その個性を楽しんでほしいです。
そして、ヘルツの製品は新しい時が一番ではなく、何年か使って、その人なりのものになっていく過程が良くて、使い慣れた時こそが一番良い状態だと思います。
そういう変化も存分に楽しんで頂けたら嬉しいです。

対談の様子

NEZ & 小野寺 最後までご覧頂き、ありがとうございました!!