こんにちは、HERZオンラインショップの松下です。
現在ある定番品の中で、思い入れのある革製品について、毎回異なるスタッフにお話を聞く「思い出の一品」コーナー。第3弾となる今回は、大人にも子供にも大人気の、あの鞄に注目しました。
第2弾はこちら:思い出の一品 vol.2 根本×2wayウエストボディバッグ(F-107)
ということで、早速お送りします。
気になる今回の製品は、、、
縦型ランドセル・玉縫い(R-51-A)
ヘルツらしい2本の前ベルト、力強いステッチ。思わず大人も目を奪われるほど、一際大きな存在感を放つ、縦型ランドセル(R-51-A)に注目しました。
ラン活という言葉が流行るほど、年々ランドセル選びが大きな注目を浴びている昨今。
年間を通じて常にヘルツの人気ランキングでも上位にランクインしている、看板商品のひとつでもありますが、意外にも実際にランドセルを作っている作り手の思いを書いたコンテンツはごくわずか。
学用品ということもあり、作り手としての思いもそれ相応に大きなものがあるはず。
他の鞄とは一線を画す存在を、普段作り手はどんな気持ちで作り上げているのか、そんな胸に秘めた思いを、とある作り手に聞きました。
今回のスタッフ:作り手 小堀
今回お話をしてくれたのは、作り手の小堀。
普段は本店の制作スタッフの一員として、日々鞄作りに励んでいます。趣味はスポーツ観戦。特にバスケットボールが好き。
また、小堀は本店制作スタッフのリーダーを任されています。
具体的には、日々の制作のスケジュール管理が主な仕事。一日にそれぞれのスタッフがどれくらい制作するか、各自の予定に応じて量を決めたり、制作全体の作業量を調整したり、店舗運営に欠かせない役割をこなしています。もちろんリーダーとして、たくさんのスタッフから相談されたり、頼み事を受ける事が多いですが、忙しい時でも気さくに接する姿が印象的です。
松下
「入社して4年半くらいとのことですが、小堀さんよりも10年以上先輩のスタッフがいる中で、いろいろと大変じゃないですか?」
小堀
「まあ、ちょっと気使うよね。(笑) 今でもわからないことのほうが多いし。でも自分より先輩の人が多いから、わからないことは相談しながらやってるよ。それに先輩とか後輩とかだけじゃなくて、得意なことや苦手なこともそれぞれ違うし、いろんな人がいるから、そういうのも含めて全体のバランスを取るのも大事な仕事かなって思うよ。」
小堀
「一つのものを作るとき、革をカットして磨いて組み立てて、っていう一連の手順を特に気をつけているかなあ。その中で、鞄として丈夫であってほしい所、気をつけるべきところっていうのを特に意識して作ってるね。あとはいかにすばやく、効率良く出来るかとか、そういう所も大事。」
インタビュー中も始終丁寧で、一つ一つ言葉を選んで答えてくれる姿からは、偽りのないひたむきな熱意と真面目さが伝わります。
思いを語る
松下
「では早速、よろしくお願いします!」
小堀
「そんなに喋ることあるかなあ、大丈夫かなあ。引き出してくれる?(笑)」
松下
「あります、あります!大丈夫です!どうにかします!(笑) 普段小堀さんはよくランドセル作ってるのを見かけるんですけど、なにか印象的な思い出とかありますか?」
小堀
「あのねえ、ランドセルを実際に買ってくれたお子さんやご家族の方が、手紙をくれたり、お店に会いに来てくれたことがあるんだよね。」
松下
「お店に直接ですか?それは嬉しいですねえ!そうやってわざわざお礼を言って頂けるって。」
小堀
「『ランドセル作ってくれた人ありがとう』とか、『大切にします』みたいな、シンプルな言葉だったりするんだけど、そういうのはやっぱり、すごく嬉しい。それにお客さんの方も、作った人が見れるっていうのは、ヘルツらしくていいなって思う。」
松下
「確かに!ヘルツならではですよね。目の前で作っていて、実際に作り手の顔が見られるっていうのはあんまりないし、魅力的ですね。」
大人になっても使えるランドセル
松下
「これは私のイメージなんですけど、ランドセルって他の鞄とは別枠だと思うんですよ。やっぱり学用品だし、小さな子が使うっていうのは、それだけ返ってくる反応も違うし、作ってる人も思うことが色々ありそうなイメージなんですけど、実際、作り手としてヘルツのランドセルにはどんな思いがありますか?」
小堀
「そうだね、やっぱり特別だなあ。そういう点で思うところとしては、やっぱり他社の一般的なランドセルって、うちとは違って軽量化とか、大容量とか、いろいろ良いところがあるけど、うちのは大人が使ってるのと一緒の作りで、子供にすごく優しいっていうわけではないじゃん。(笑) でもだからこそ、大人と同じっていうところが魅力的で、すごく素敵だなって思う。そういう意味では特別な思いはあるね。」
松下
「なるほど。軽量化というワードが出ましたが、重さがね、やっぱり一番気がかりな点じゃないですか。(笑)」
小堀
「そうなんだよね、ちょっと重いんだよね。(笑) ヘルツ製品の共通点でもあるけど。」
松下
「普段オンラインショップで働いていて、『軽くしてほしい』っていうご要望とか、『革を薄くすれば少しでも軽くなるんじゃないか』っていうご意見とか、様々なお声をいただくんですけど、作り手としてはそういう所をどう思っていますか?」
小堀
「作り手としては、、、申し訳ないけど、そういうのは難しいかなあ。もちろん、すごく気持ちはわかるけど。作る方としては、とにかく丈夫であってほしいことが一番にある。ヘルツの厚い革で、大人と同じものだからこそできるランドセルだと思っているよ。」
松下
「ああー、そうですよね。大人よりもすごく活発だし、外で走り回ったりとか、遊んでるうちに何回もぶつけちゃったりとか、色々あると思うんですけど、なるべくなら大人になっても使ってほしいですもんね。」
小堀
「そうそう。重さについては、本当に申し訳ないけど、それだけの価値はあると思う。金具類はねえ、どうしても摩擦ですり減っちゃうから、修理が必要になったりもするけど、俺ランドセル本体の革が壊れてるのは今まで見たこと無いんだよなあ。」
松下
「私もです!それってやっぱり、大人と同じヘルツの鞄として、丈夫で厚い革だからこそっていう所に通じているのかなって思いますね。」
小堀
「そうだよね。それに、綺麗に使ってるなあとか、投げちゃったりしてるのかなあとか、金具修理で戻ってきたランドセル見ると伝わってくる。(笑) それでも毎日使ってくれてるのが伝わってきてすごく嬉しい。」
松下
「あはは、確かに!『ああ、学校楽しそうだなあ』とか、想像すると嬉しくなっちゃいますね。」
小堀
「そうそう。一般的なランドセルはすごく軽いけど、中には破れたり糸が切れたりしてしまうこともあるから。俺のランドセルもそんな感じだった気がする。ヘルツのランドセルはちゃんとオイル塗れば卒業後も長く使えるから、親子で協力して一緒にメンテナンスしてあげてほしいね。」
松下
「そうですね。でもオイルでのお手入れって、子供はたぶん初めてじゃないですか?私子供の時に本革なんて触ったことあったかな、、、。」
小堀
「そうだよね。メンテナンスは大変だなあとか、面倒だなあとか思うかも知れないけど、やるのとやらないのでは全然違うから、それはお父さんやお母さんが教えてあげてほしいね。」
松下
「せっかくだし、作り手とやるオイルメンテナンス講座とかどうですか?」
小堀
「え、いいじゃん!作ってる人もわかるしね。楽しそう!午前の部と午後の部とか分けてさ。」
松下
「わあー、楽しそう!ちょっと今初めて話したことなので、全然実現出来るかわからないですけど、頑張って企画考えてみますね。(笑)」
ランドセルを作る上で気をつけていること
松下
「普段ランドセルを作っていて、製作工程で気をつけていることとか、難しいところとかがあれば教えてもらえますか?」
小堀
「うーん、そうだなあ。こういう玉縫い(パイピング)の所とか、厚い革同士でさらに革を挟んで縫ってて、形がすごく良いじゃん。こういうところはやっぱ難しい。漉きをちゃんとしないと形が出ないし。漉きはすごく大事にしてる。」
※『漉き』とは、革の厚みを僅かに削って調整する作業工程のこと。
松下
「漉きって、ミリ以下の調整ですよね。本当にごく僅かな調整なのかなって思うんですけど。」
小堀
「そうだね。でも、それで結構違うんだよね。幅と厚さをちゃんと漉かないと、形がちゃんとふっくらしなかったり、凹んだりして格好悪くなっちゃう。作ることに関してはそこを一番気にしてるかも。」
松下
「へえー!そんなに違うんですね。」
小堀
「これだけ厚いからね。これは3.5mmの厚さの革なんだけど。」
松下
「こうやって見るとかなり分厚いですねえ。漉く厚さってもう決まってるんですか?」
小堀
「いや、実は漉く厚さは明確には決まってないの。というのも、その日その日で革が微妙に違うから。柔らかいものもあれば硬いのもあって、個体差がどうしてもあるから、その日に用意してもらえた革を自分で見て、微妙に調整しなきゃいけない。」
松下
「わあー、自分の経験を信じて?凄いですね!制作は縫うのが一番大変なんだと思ってました、、、。」
小堀
「あははは!縫うよりも漉き加減で見た目の印象は変わってくるからね。もちろんミシンも気をつけるけど、ある程度いつも通りと言うか、日々変わらず出来る所。でも、日々変えなきゃいけないのが漉き。だから難しいね。」
(実際の漉き作業の様子。画像クリックで拡大でご覧いただけます。)
(実際に漉いた後に玉縫いをする様子。かなりの厚みがあります。)
小堀
「あとは、こういうよく引っ張るところの縫い返しとか糸処理もしっかりして、丈夫になるように気をつけてるよ。」
松下
「ああー、前ポケットはグイッて引っ張りがちですよね。こういう糸が切れたり、ほつれやすい所は特に気をつけて作っているんですね。」
小堀
「そうそう。あとは、ヘリ巻きとかかな。」
※ヘリ巻きとは、革の断面に細長い革をテープのように巻いて縫い付け、補強する技術のこと。
松下
「ヘリ巻き、、、ちょっとわかりにくいんですけど、ヘリ巻きの所ってどういう風になってるんですか?」
小堀
「ここはね、後面はベルポ(樹脂板)を革で挟んでて、一回仮縫いした状態の縁の上から、約1cm幅で細長い革を縫い付けてるんだよ。これだけ分厚くなってるから、縫うときズレやすいんだよね。ここは結構難しい。初めてランドセル作るとき、だいたいみんなここで苦戦する。」
松下
「うわー、こんなに分厚くなってたんですね!普段外側しか見ないから驚きました。」
作ることは、楽しいこと
松下
「ランドセルって、ぶっちゃけ他の鞄に比べて作るの大変って思いますか?」
小堀
「大変といえば大変かなあ。それなりにパーツ多いし。これだけ全部を組み立ててるしね。」
松下
「これ全部で一型分ですか?すごく多いんですね!気をつけなきゃいけない所も多くて難しそう。」
小堀
「でもね、俺結構楽しいよ。これは言っておきたい。 自分の中で、楽しんで作ってる。集中してるときとか、作っててすごい楽しい。」
松下
「えー、ほんとですか?!凄いですね。どんなところに楽しさを見出してるんですか?」
小堀
「うーん。一から全部手作りで、日々同じものを作ってるけど、なかなかそう簡単に100点満点は出せない。本当に難しい。でもだから、次はこうしようとか、考えながらやるのが楽しい。それですごく良く出来たっていう日とか、達成感もすごくあるし、日々自分が成長しているのを感じられたり、そういうところがやりがいかもしれない。」
松下
「おおお、格好良い。まさしく『職人』っていう感じです。」
小堀
「あとね、自分が作ったものはすごく覚えてるよ。後から見せて貰ったものとか、SNSで載ってるものとか、ステッチの具合とか見ると、あのとき俺が作ったのだってわかる。ネーム刻印とかセミオーダーのものもよく覚えてる。」
松下
「へえー!覚えてるんですねえ、すごい!」
小堀
「毎日鞄を作るっていう、同じことの繰り返しではあるけど、一個一個違うものだし、自分の中でそうやってなるべく楽しみながら作ってる。」
松下
「なるほどー。確かに、そうやって考えたら達成感とかやりがいが沢山あって楽しそう!」
小堀
「そうそう。機械で作ったら全部同じだけど、手作りだからこそある味わいだし。手作りだからこそのやりがいだよね。それに、俺がここで作るまでに、いろんな人が関わってるからさ。革を作ってるタンナーさんもそうだし、裁断担当の作り手が革を切ってくれて、俺らはその後だから、手元に来るまでに関わってる人たちの思いも大切にしたいって思ってるよ。」
皆様に一言
松下
「最後に、皆様に一言いただけますか?」
小堀
「うーん、、大事に使ってほしいな。(笑) 難しいと思うけど、大事に使ってほしい。あとは、たぶんこれ子供が大人に買ってもらう物じゃない?自分がこういうの使ってたっていうのを、何となくでいいから覚えてて、大人になってからも同じようなビジネスバッグとか、革鞄を使ってくれたら嬉しいなあ。大人になったときにふと思い出してくれるようなものであって欲しいなって思う。俺は自分が使ってたランドセルとか全然覚えてないけど。」
松下
「ははは!私も覚えてないなあ。赤色だったのは覚えてるけど、結構ボロボロだった気がする。」
小堀
「記憶の中にちょっとあるじゃん、『小さいときに持ってたあのおもちゃ』みたいな。そういうちょっとでいいから、覚えててくれたら嬉しい。それでいつか自分が親になったときに、またこのランドセルを買ってあげてほしいね。」
松下
「わあ、そんなの泣いちゃう!そんな嬉しいことはないですね。」
小堀
「嬉しいよね。そこまで頑張らなきゃいけないね、作り手は。」
松下
「おおお、頼もしい、、!かっこいいですね。大々的に書いていいですか?(笑)」
小堀
「うん、大々的に書いといて。(笑)」
松下
「了解しました。(笑) 有難うございました!」
~ 次回予告 ~
本店作り手 沖泙×ファスナー長財布(WL-58)をお送りします。
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