こんにちは、HERZオンラインショップの松下です。
現在ある定番品の中で、思い入れのある革製品について、毎回異なるスタッフにお話を聞く「思い出の一品」コーナー。第2弾となる今回は、ヘルツらしさ満点の個性的な製品に注目しました。
第1弾はこちら:思い出の一品 Vol.1 野口×大型ギャジット3wayリュック(A-21)
ということで、早速お送りします。
気になる今回の製品は、、、
2wayウエストボディバッグ(F-107)
ウエストボディバッグには珍しいコロンとしたフォルムで、張りのあるカチッとしたハードレザーと、ソフトレザーの柔らかな曲線が合わさった、独特なデザイン。前面の力強く太いステッチ。そして、かぶせを留める大きな差し込み錠前。
そんなヘルツらしさがぎゅっと凝縮されたような、2wayウエストボディバッグ(F-107)に注目しました。
発売されたのは、今からおよそ10年ほど前。
甲羅のような立体感が特徴的ですが、意外にも収納力はしっかりあります。
その秘訣は、メイン部分とマチ部分で異なる革を使用していること。
メインはラティーゴのハードレザーでしっかりと立体感を出しつつも、マチを柔らかいスターレにし、ジャバラのように折りたたんだ側面が大きく開くことで、容量を損なうことなく、独特なフォルムを形成しています。
そんな工夫が詰め込まれた個性的なこちらの鞄ですが、一体どのような経緯で生み出されたのか。
第2弾となる今回は、実際にこちらの製品の生みの親である作り手本人に、その誕生秘話を伺いました。
今回のスタッフ:作り手 根本
今回お話してくれたのは、作り手の根本。
普段は本店制作スタッフの一員として、日々鞄作りに励んでいます。趣味はキャンプなど、アウトドア全般。
通常の制作作業の傍らで、全店舗の生産バランスを取る役割も担っており、各拠点のリーダー陣と連携を取りながら問題点の解決に尽力しています。他にも営業関連の窓口でもあって、広報活動や、新聞、雑誌、テレビ、映画関係などの業務を一手に担っています。慌ただしい日々を送りながらも、常に大らかな表情を崩しません。
根本
「店舗と直結した工房で、すぐそこで目の前にお客さんが居て、見られてることを意識して気をつけているよ。もちろん鞄を作る上での上手い下手っていうのも大切だけどね。」
「お客さんが初めに鞄を見て興味を持ってくれた時、鞄に手を伸ばしたそのファーストコンタクトになる、持ち手の部分。そこはやっぱり作りの中でも大事にしたいなって思ってる。最初にそこに触ったときに、あれ、なんか違うなとか、触り心地がイマイチだったら戻しちゃうからね。」
鞄を作る上で気をつけている所やポイントを伺うと、こう快活に答えてくれました。人間で言うところの第一印象にも似たポイントを、当たり前のように鞄にも意識して制作に励む、根本の誠実で温かな人柄が伺える言葉です。
思いを語る
松下
「前回の思い出の一品では、野口さんの奇跡のようなエピソードを教えていただきましたが、今回は生みの親ならではの話を聞けたらなと思っております。」
根本
「手前味噌な感じだよ?多分。(笑)」
松下
「あははは!いや、そういうのこそ聞きたいと思うので、よろしくお願いします。(笑)この鞄を作ろうと思ったきっかけをお聞きしてもいいですか?」
根本
「きっかけはねえ、その昔、今よりもっと人数も少なかった頃、”みんなで何か新作を生み出そうぜ”っていう話があったの。僕はそれでスケッチを書いたりして構想を膨らませて、今までになかったような物を作りたいなあっていう思いが一番先行してあって。それを実現させる、形にするにはどうしたら良いかなあってやって悩んでたら、こんな形になった。」
松下
「ふむふむ。今までになかったというのは、形がですか?」
根本
「そうそう。つまんで寄せて形を立体的にするっていうのはいろんな鞄でやってたけど、その中で割とこぶりなボディバッグ、ウエストバッグにも使えるようなサイズ感が欲しかった。自分がお散歩行くときに持ち歩く、文庫本や財布、携帯等がちょうど収まるサイズ感、という目安で大きさを決めたよ。」
松下
「なるほど。立体感と程よいサイズ感を兼ね備えた鞄っていうイメージでできたんですね。」
根本
「それに加えて、ワンポイント大きめの金具で一箇所バシッと留める、っていうのは最初から決めてて、この金具を使って何か作りたいなっていう気持ちがあって、それでこの顔になった。」
松下
「すごく特徴的ですよね。これはあえて鍵で締められる錠前を選んだんですか?」
根本
「そうだね。差し込みで簡単に止められて、なおかつ大きさもあって存在感が良いから。(笑)」
松下
「存在感!意外と単純!(笑)でもラティーゴとの相性もすごく合ってて、良い存在感ですよね。ピッタリハマってる気がします。あとこれ、実は異なる革を組み合わせて作ってますよね?」
根本
「そうそう。メインはハリがある硬めのラティーゴで、マチ部分は柔らかいスターレにすることで、鞄のイメージと一緒に容量も損なわないようにした。本体の主要部分はカチッとしてて割と小さいけど、柔らかい革で広がるようなデザインにしたら面白いんじゃないかなって思ったんだけど、これがまさか定番になるとは!(笑)」
松下
「まさか!?なんでそんな予想外な感じなんですか!(笑)」
根本
「だってこれ、選ばないでしょ?」
松下
「えええ!?私これ結構好きですけど。他にはないデザインだし、革のカチッとした感じのボディバッグって良いじゃないですか!」
店長鈴木(会話に飛び入り参加!)
「僕これ、結構最初から店で人気だったの覚えてますよ。」
根本
「そうだっけ?いや、僕が予想外に思ってたのには理由があって。あのねえ、これ最初※手断ちでやってて、正直作るのめちゃめちゃ手間だったわけよ。(笑)」
※「手断ち」とは、一枚の大きな革から手作業で革を裁断すること。
松下
「手間だったって、正直だなあ!(笑)」
根本
「要は型紙の形がすでに変だから。全然直線的じゃない。大変だったんだよ~。型紙、見る?」
松下
「見ます見ます!見せて下さい!」
ということで、今回特別に型紙を見せてくれました。
大変だった制作当初
松下
「うわー、、、確かに、これはすごい。うねうねしてる。」
根本
「その当時、最新鋭の”ZUND(ズンド)”って呼んでいた機械があって、型紙をデータで入力すると、その通りに機械が革を裁断してくれる便利な機械が導入されたの。これはもういち早くZUNDで作ろうってなったよ。(笑)」
松下
「本当に手間だったんですね。(笑)でも確かに、これを大きな一枚革から少しずつ裁断するのは骨が折れますね。」
根本
「今となっては抜き型で、一発で裁断出来るけどね。そういう意味では、作業効率はすごく上がったよ。だから、そんなので定番になるなんてね。切りやすい直線なんてほぼ無いのに。(笑)」
松下
「そうだったんですねえ。当時の大変さが伝わってきました。」
革でしか作れない面白さ
松下
「それほど苦労して出来上がった鞄ですが、実際この立体感って、作るの難しそうですね。ミシンで縫うのも苦労しそうです。」
根本
「いやそれがね、意外とそんなことないんだよ。手数で言ったらそんなに多くないし、勝手にって言ったら言葉が悪いけど、縫い止めていったら立体的に仕上がっていくから。平面を折りたたんだからと言って三次局面というのは、普通はできないよね。革だと折りたたんだだけでグワッとした形が出やすい。」
松下
「確かに!面白いですよね。布じゃないから出来る、革でしか作れない鞄だと思います。」
根本
「そういうのがうまくハマった感じはある。いろいろと試して、ここで切ったらこうなるかなとか、試作は結構重ねて色々試したなあ。」
根本
「それに、隙間が開かないようにちゃんと寄せて作らないと、ボワンと開いて印象が大きく変わっちゃうから、そこは気をつけて作ってるね。全体の整形がちょっと甘いとか。横マチはせっかく容量稼ぐために膨らませてるんだから、そこはちゃんと膨らませて、ビシッと整形するように。他の作り手が作るときにもそう教えたりしてるよ。」
松下
「なるほど。それだけで入る荷物変わってきますしね。せっかくこだわって作ったフォルムが台無しになってしまいます。」
2wayバッグであるということ
松下
「あとお聞きしたかったのが、綿ストラップについて。革ストラップに変えたいっていうお客様が少なからずいらっしゃるんですけど、この鞄を生み出す過程で綿ストラップを採用したのは何故でしょうか。」
根本
「そうだねえ。特にものすごく強いこだわりを持って選んだというわけじゃないけど、革一枚で仕上げると、革の裏処理が当時は今ほど良くなかったから、バリバリに毛羽立ったりして、服が傷んでしまったりすることもあったんだよ。だから、使うならこっちのほうが服には良いなって思って。」
松下
「ああー。ボディバッグは特に身体に擦れますからね。」
根本
「そうそう。制作の過程で革ストラップもやったし、いろいろと試したんだけど、調節のしやすさとか使い心地とか見た目の素材感とか、いろいろ考慮した結果、綿テープになった。僕の愛用品ページに載ってるのは、この試作段階のやつだから革ストラップなだけだよ。(笑)」
根本
「あとね、ボディバッグ的に使ったり、ウエストバッグ的に使ったりする時、後面の上部がちゃんと動くように金具を選んだのはこだわりの一つかな。ここが動くことで、縦にも横にも、体の動きに合わせて動くように工夫した。長くしてポシェットみたいにも出来るしね。」
松下
「すごく大事なポイントですね!さり気ない工夫ですけど、これが普通に固定されているだけだと、使い勝手が全然違いますから。」
根本
「ストラップを留めて、背中に回してっていう一連の動作は、鞄が大きすぎると結構大変だから、ちょうどいい小ぶり感を目指したらこのサイズになったんだよ。」
松下
「なるほど~。やっぱり2wayとして使うには、身体に沿って動かしやすいのは大事ですね。ここで身体にフィットする綿ストラップが生きてくるわけですね!」
根本
「そうそう!鞄にも身体にもフィットして、背負ったり身体に沿って回したり動かすイメージをした時、やっぱりこのストラップで、本体もちょうどいい小ぶり感で、っていうのがあったなあ。ちなみに、発売当初は綿ストラップが無かったから、ナイロンのストラップを使っていたんだよ。けど今より少し硬かったから、ナイロンをやめて綿にしたらどうかってことになって、少ししてから今の綿ストラップになって、さらに使いやすくなった。」
松下
「へえー!どんな新作も、作って発売して終わりじゃないですね。その時々で必要な改良や仕様変更を考える大切さが伝わります。」
皆様に一言
松下
「最後に、お客様に一言頂けたらなと思うのですが、どうでしょうか。」
根本
「うーん…ちょっと、個性が強いよねえ。(笑)」
松下
「いやいやいや、そこが良いんじゃないですか!(笑)」
根本
「革製品でこの形ってあんまりないじゃん。やっぱりこだわりを持って作ったけど、個性がだいぶ強いから、迷っている人に絶対いいですよ!とは言いづらい。」
松下
「あんまりないからこそ、自分はいいと思いますよ!」
根本
「そう?まあ、ある程度の堅い感じもありつつ、ラインの柔らかさも持ってるから、使っていく内に身体に馴染んでくるとは思うけど。ヘルツらしくて、ころっとした形で、僕の中ではすごく愛らしいというか。自分の中での愛着もあるけど、お客様にも愛着を持って使ってくれたら良いなとは思う。」
松下
「すごく良いこと言ってくれてありがとうございます。(笑)」
根本
「あはは、頑張って育てて使って下さい!」
始終穏やかな眼差しを崩さず、一つ一つ丁寧に答えてくれた根本。
暖かな人柄と一緒に鞄に込めた強いこだわり、出来上がった鞄と同じ強さと柔らかさが印象的なインタビューでした。
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