こんにちは、HERZオンラインショップの松下です。
現在ある定番品の中で、思い入れのある革製品について、毎回異なるスタッフにお話を聞く「思い出の一品」コーナー。第4弾となる今回は、「ヘルツの長財布といえばコレ!」という声も多い、名実ともにヘルツを代表するあの長財布に注目しました。
第3弾はこちら:思い出の一品 vol.3 小堀×縦型ランドセル・玉縫い(R-51-A)
ということで、早速お送りします。
気になる今回の製品は、、、
ファスナー長財布(WL-58)
適度に厚みのある柔らかな革と太いステッチ。毎日のヘビーユースにも安心出来る、使い勝手抜群のファスナー長財布(WL-58)に注目しました。
常に肌身離さず持ち歩く財布は、機能性はもちろん、見た目のデザインや強度にもこだわりたいもの。
そんなお客様のお声を直に聞き、HERZで数々の定番品を生み出しているベテランの作り手:NEZがデザインした、渾身の力作です。
ヘルツオリジナルレザーのスターレを使用した、手触り良く肌に馴染む柔らかな質感。厚すぎず薄すぎず、手に取ったときにちょうどよく収まる長財布は、使い込むほどに味わいが増していきます。
シンプルな外見からは想像がつかないほど、中身は充実した機能性を持ち合わせているのが何よりの特徴。収納スペースは大きく5箇所に分けられ、レシートやカード類をたくさん収納しても、中身が一目瞭然です。
そんなファスナー長財布(WL-58)を実際に毎日たくさん制作している、こちらのスタッフにお話を伺いました。
今回のスタッフ:作り手 沖泙
今回お話してくれたのは、作り手の沖泙(おきなぎ)。
普段は本店の制作スタッフとして、主に財布やキーケースなどの小物類を多数制作しています。趣味はハンドメイド。「昔から何かを手作りすることが好き」とのことですが、実際に本店のディスプレイを彩る革小物のほとんどが沖泙による手作り。正月の門松やハロウィンのかぼちゃなど、手の込んだディスプレイ品でイベント時期を盛り上げ、忙しい日々でも遊び心を忘れません。
(実際に沖泙が制作したディスプレイ。店舗を訪れたお客様からもご好評頂いています。)
また、制作作業の傍ら、使用する部材の発注や管理も担当しています。時には本店のレジに立ったり、お客様の電話応対にも積極的に応じ、常に広い視野で本店を支えている、とても頼りになる存在です。
沖泙
「世の中に全く同じ財布を持っている人ってそんなに居ないじゃない?本当にたくさんの財布がある中でヘルツを選んでくれてるんだから、やっぱり全部きちんと作りたい。」
これはインタビュー中にふと吐露した、ヘルツのお客様への思い。常に前を向き、時には厳しい言葉で自他ともに律する、沖泙らしさが如実に表れている一言です。
思いを語る
松下
「よろしくお願いします!思い入れのある一品としてWL-58を挙げていただきましたが、今までにかなりの数を作ってきていますよね?」
沖泙
「そうそう。WL-58は、冬の企画とかで限定革を使って、一度にたくさん作る時もあるから、より多く作ってる印象が強いかな。普段は一人で完成まで手がけるけど、そういう時だけは、ノムちゃん(作り手:楠の愛称)と二人で作ったりもするよ。」
松下
「へえー!そうなんですね。」
(実際に楠と二人で企画品のWL-58を作る様子。ブログ『日々を積む』でも登場しました。)
沖泙
「たくさん作る中で、どうやったら楽しいかなとか、どうやったら早いかなとか、毎回いろいろ考えながら作ってる。その結果ノムちゃんの制作速度が凄く上がったのも印象的だし、お互い連携が取れるようになって、『二人で一緒に作った』っていう思いが強いのがこれ。たまに共同で作ると発見もあって楽しいよ。」
楠
「改めて制作について考えるきっかけにもなってるよね。お互いに作ってるところを盗み見たり。(笑)」
沖泙
「小物は鞄と違って作る数も多いから、ずっと作っていると必ず何かを間違えたり、ミスが出てくる。だから自分の中でちゃんとルーティンを作って、集中して作らないといけない。そのために、本当に小さな事だけど、こっちのほうが良くないか?とか、ちょっとやり方変えてみようとか、こっちのほうが早かったとか、未だに凄く模索しながら作ってるね。」
松下
「二人がどれだけ効率よく作れるか一つ一つ工夫した結果、毎回より良いものが出来上がっているんですね。何か具体的に、このWL-58を作る上で工夫しているところを教えてほしいです。」
沖泙
「これはファスナーの貼り方がすごく大事なんだけど、初めて作り方を教わったときはなかなか納得のいく仕上がりにならなくて。どうしたら良いんだろうって模索してたら、『引っ張って貼る』っていう一工夫に辿りついた。」
松下
「引っ張る?」
沖泙
「そう。柔らかい革だから普通に貼ろうとすると歪みやすくて。それで、閉じた時になるべく真っ直ぐになるように、引っ張って貼るっていう工夫を考えた。」
松下
「なるほど!」
沖泙
「あとはこういう角のところとか、その時の革質によってはファスナーが剥がれやすかったりする時があって。それもどうにかしたくて、角まで全部糊付けをするようにした。」
松下
「たまに起こりえることにも気を配る必要があるんですね。」
沖泙
「うーん、何十回に一回の不安かもしれないけど、そのリスクが有るなら避けたい。その方が自信を持って縫えるしね。」
鞄と小物類の違い
松下
「別の作り手に聞いたときも、鞄と小物は全然違うって言ってました。作り手の人にとって鞄と小物はどう違うんでしょうか?」
沖泙
「そうだねえ。まず小物は手の中に収まるから全部が見えるよね。鞄は見えない所もあるけど、小物はほんの少しズレたりしただけでも目立つから、より気をつけて作る必要があると思う。」
松下
「ああー、確かに。」
沖泙
「縫いの難易度は鞄のほうが高いけど、見た目の美しさは小物のほうが気になってくると思うよ。鞄は家に置いて出かけても、財布は必ず手に持つじゃない?だから毎日一緒に居ても嫌じゃないようなビジュアルが大事だと思う。」
松下
「でもヘルツの製品って、革も厚くて糸も太くて、とにかく丈夫であることを第一にしていますよね。そうすると、どうしても見た目に影響が出てしまう場合があると思うんですけど。」
沖泙
「そうだね。丈夫であることはヘルツにはとても大事で、それゆえの見た目もヘルツの個性の一つだと思う。長く使ってもらうものだからこそ、その印象も大事にしたいって思う。WL-58も今まで何百と作っているものだけど、何回作っても同じクオリティにしたいし。その平均値を上げたいって考えるのはすごく大事だと思う。だから未だに、今やっているこの作業は本当にこれでいいのか?って、よく考えるよ。」
松下
「なるほど~。『少しでも良いものを作りたい』っていう強い思いが伝わってきます。」
向上心は自信につながる
松下
「ひとつひとつに気力を注いでいるのが伝わってくるんですが、それを支えているモチベーションは何ですか?毎日どんな気持ちで作ってるのか気になります。」
沖泙
「うーん、、、『この子は、自信を持って嫁に行かせてあげられる』みたいな、親のような気持ち。(笑)」
松下
「なるほど!我が子のような気持ちなんですね!」
沖泙
「もちろん、毎日作ってるからたまに辛い時もあるけど、向上心がなかったらただの機械と変わらなくなってしまうから。私が作った財布が、みんなの予想を超えるようなものでありたい。人の予想を超えた時、初めて驚きとか感動を与えられるんだと思う。だから修理とかで戻ってきたものとか、自分が作ってないものでも聞きに行くようにしてる。今全部同じやり方で作ってるけど、何か改善すべき点が見つかればやり方を変えたりもするし。」
松下
「徹底していますね。」
沖泙
「ミスする、やりづらいっていうのは、必ず改善できるきっかけになると思う。一つ一つ何が大事かを考えるようにして、どうなったら正解かを考えること。だから、その繰り返しかな。」
無駄をなくすということ
松下
「いつも工房を見ていて思うんですけど、仕事がめちゃめちゃ早いじゃないですか。私は、物づくりに携わる人に通じることって、無駄がないことだと思うんです。これはヘルツに限らず、どのエキスパートの方でもみんな仕事が早い。それって、たくさん経験を積んで、一つ一つの無駄をなくした結果だと思うんですよ。そうやって良いクオリティのものが出来上がっていくんじゃないかって思うんですが、自身の早さについてはどう思ってますか?」
沖泙
「そうだね。無駄に時間をかけているものってあまり美しくないと思っていて、早さと綺麗さと丈夫さは直結していると私は思ってる。ミスがないようにすれば早くなるし、自信を持ってちゃんと作れるから、その分良いものが作れるんじゃないかな。」
松下
「なるほど。まさにヘルツの作り手ですね。」
(実際にWL-58を製作する様子。一つ一つスピーディに仕上げていきます。)
沖泙
「糸処理が終わったらこういう向きで置いて、その次は糸を切るからこっち向きで、っていう風に、すぐ目視でわかるようにしてる。一日に何個も作る事があるけど、そうやって自分の中でルーティンを決めることで、些細なミスが無くなって、結果的に早くなった。そうやって作った余裕で、集中するべきポイントに集中できる。縫いは一番緊張するから、そこになるべく集中できるように準備をしてるかな。」
松下
「置く向きまで!すごく細かいところまで気をつけているんですねえ。みんなに知っていただきたいです。」
沖泙
「そうかな?!」
松下
「だって、なぎさんはよく照れ隠しみたいに『後々面倒くさいから』って言うけど、そういうレベルじゃないから!(笑) 作り手として、すごく深く考えてるから。」
沖泙
「だって、失敗したらまた戻って、全部やり直してって、凄い時間かかるんだよ?だったら最初からミスしないように工夫したほうがいいと思う。」
松下
「そうですよね。その数分のひと手間で後々すごく変わってきますもんね。」
沖泙
「そうやって一つ一つに心を込めて作って、全国の人に『ヘルツの革財布っていいな』って思ってもらえたら嬉しいな。」
皆様に一言
松下
「最後に、皆様に一言いただけますか?」
沖泙
「うーん、なんだろう。一言?」
松下
「一言でも二言でも!」
沖泙
「自信を持って作ってます。みんな一個一個を我が子のように思いながら、いつでも嫁いで行かせられるよう頑張ってます。」
松下
「ありがとうございます。一つ一つに思いを込めて作っていることが伝わってきました。」
沖泙
「恥ずかしいね。こんなんで大丈夫?(笑)」
松下
「はい!バッチリです!ありがとうございました!」
~ 次回予告 ~
本店作り手 木村×ファスナーブリーフケース(BW-3)をお送りします。
自らがデザインした商品へかける、並々ならぬ情熱のお話が聞ける、、、かもしれません。