こんにちは、HERZオンラインショップの松下です。
現在ある定番品の中で、思い入れのある革製品について、毎回異なるスタッフにお話を聞く「思い出の一品」コーナー。第5弾となる今回は、今年の春も多くの方にご好評いただいている、あのビジネスバッグに注目しました。
第4弾はこちら:思い出の一品 vol.4 沖泙×ファスナー長財布(WL-58)
ということで、早速お送りします。
気になる今回の製品は、、、
ファスナーブリーフケース(BW-3)
革の張りをテーマにした、カッチリしたフォルムが印象的なファスナーブリーフケース(BW-3)に注目しました。
適度な厚みと硬さがある、ラティーゴのハードレザーならではの質感と独特な構造で、張りのある盤面と半円形のフォルムが目を惹く2本手ビジネスバッグとなっています。
使い勝手のいいダブルファスナーは、マチの下部ギリギリまで降ろせるので、がばっと大きく開いて出し入れもしやすくなっています。
一方で、マチには水かきを取り付けることで、横から荷物が零れ落ちるのを防いでくれるひと工夫も。
Mサイズ、Lサイズともに15インチのノートPCが収納できるので、スマートなマチ幅ながらも高い収納力を誇ります。
他のビジネスバッグと比べると定番化からまだ日が浅いですが、多くのお客様にご愛用いただいている人気商品となっています。
そんなファスナーブリーフケース(BW-3)について、とある作り手に話を聞きました。
今回のスタッフ:作り手 木村
今回お話してくれたのは、作り手の木村。
普段は本店の作り手として様々な鞄の製作に携わっています。以前はヘルツ博多店に在籍していましたが、本店勤務になってからも博多弁で気さくにコミュニケーションを取ってくれます。好きなアーティストは椎名林檎とみうらじゅん。
これまでにもビートルリュック(R-3)など、新作作りにも精力的に活動しており、一日の終わりに型紙や紙粘土と格闘している様子を目撃することも。
自らが生み出した鞄への愛情が深く、話を聞くとどこまでも尽きない話をしてくれます。
木村
「鞄を作る、新作を生み出すっていうのは、正直終わりがない世界だと思う。作り手はね、もっと鞄を作った後のことも発信していかなきゃだめよ。」
とある一日の終わりに、木村がふと熱い思いをぶつけてきた際の言葉。
そこにどんな思いがあるのか興味を持ち、このインタビューを敢行することになりました。
思いを語る
松下
「よろしくお願いします。以前のブログなどを拝見したんですが、この鞄を作ったきっかけは確か旅モノですよね?」
※『旅モノ』とは、作り手が旅に使いたい鞄や小物たちを作り、実際に使ってみる、という恒例の人気企画のこと。
木村
「そうそう。旅モノのボストン。見たことあったっけ?『エアボストン』っていう大きいのを作ってたんだけど。」
木村
「なんて言ったって、この張りを表現したかったんよ。何ていうか、、、革の張りって、良いよね。
俺は元々こういう面が取られた石鹸みたいな形が好きで。角張ったものより、革を曲げたときの、張りのある状態に魅力を感じて、それを形にしたかった。」
松下
「わかります!良いですよね。ユーフラテとかの柔らかくてクタッとした感じも良いですけど、ラティーゴのカチッとした感じの方が私も好きです。」
木村
「ラティーゴって実は3種類の厚みがあって、製品によって適切なものを使い分けているんだけど。厚すぎると重くなるし、薄すぎるとのっぺりしちゃう。ナレッジバッグ(CW-137)のかぶせで使われてるのと同じ厚みのものを曲げてあげたら、いい感じの立体感が生まれた。」
松下
「なるほど。ちょうどいい厚みのおかげで、この前面のマチの張りが出来上がっているんですね。今はビジネスバッグになっていますが、どうしてボストンバッグではなくビジネスバッグになったんですか?」
木村
「自分ではボストンの方がかっこいいと思ったんだど、正直に言うと、旅モノとして販売した時に、期待していたよりあんまり反応が良くなかったんだよね。(笑) それで考えた結果、同じ構造のまま、日常的に使いやすいサイズ感に落とし込んで、ビジネスバッグとして落ち着いた。」
松下
「なるほど。でも確かにボストンバッグとなると大きいから、価格も上がってしまいますし、すぐに手は出しにくいかもしれないですね。」
木村
「そうでしょ?作った方としてはやっぱり、より多くの人に使ってほしいから。ボストンの方がマチ幅が大きい分、思い切り張りが出せるんだけど。そういう意味では、こいつの気に入っているところは、マチ幅は薄いけどそれでも結構しっかり張りが出せたっていうところ。張りがあればあるほど格好いいと思う。」
松下
「この構造ならではの魅力ですね。」
木村
「艶々のテッカテカに使ってほしいよね。」
デザイン性と機能性の両立
松下
「この商品のポイントでもある水かきについてですが、ヘルツの製品でマチに水かきがあるのってあんまりないですよね?」
木村
「そうそう。Organ製品ではよくあるんだけどね。ガバッと開いた方がいいから、実は最初は水かきは無しで行こうかなって思ってた。
もう少し底面の補強革の位置を高くしたら、ファスナーの位置も高くなるから、物は落ちにくい。でも中身は開きずらいし、カッコ悪い。だから一番下まで開くようにしたかったけど、そうすると書類が落ちる。それで、やっぱり水かきだな、って。」
松下
「ちょうどいいところに収まった感じなんですね。」
木村
「上京したてで慣れない中、何回もOrganに通って、水かきがついてる鞄を見て勉強したよ。
でも、それをそのままトレースするんじゃなくて、自分なりにオリジナルの付け方を工夫したり。あんまり細かいことは、秘伝のレシピってことで、、、。」
松下
「企業秘密ってやつですね、了解です。」
木村
「あとは、この鞄って上部がアーチ状になっているから、実際に四角く入るスペースは小さくなる。
だから構造上必ずデットスペースが上に生まれて、全体の高さが高くなっちゃうんだけど。
既存の作りでこういう構造のがあんまりなかったから、新しく作るにあたって見た目のバランスと機能性をちゃんと盛り込めた、っていう気持ちはあるね。」
松下
「確かに!このアーチ状のフォルムと全体の高さの、絶妙なバランスがあるんですね。元々収納したいものは何かあったんですか?」
木村
「15インチのノートパソコン!本店にある15インチのサンプルと格闘しながら、、、Lの方は余裕があるけど、Mは割と切り詰めたかな。」
松下
「なるほど。実際のビジネスシーンを想定しながらサイズを調整していったんですね。」
木村
「でも俺、ビジネスマンになったことがないから、自分が普段使わないジャンルの鞄っていう意味では苦労したなあ。2wayにするか手持ちにするかっていう所にもすごく悩んだ。街ゆくサラリーマンの姿を眺めたり、既存の定番品のラインナップをばーって並べてリスト化してみたり。最終的には、この構造に2wayと1wayどちらが適しているだろうかって考えた結果、1wayで手持ちだけにした。」
松下
「この構造でショルダーをつけるとすごく変形しそうですもんね。張りのある曲線が歪んで維持出来なさそうな気がします。」
木村
「このままだったら、すごく不細工になるだろうね。それに、元々2wayにしたかったわけではないから。根本的にはビートルリュック(R-3)をビジネスバッグにしたいっていう思いがあったから。」
松下
「来ました、ビートルリュック!ご存知の方も多いと思いますが、本当にビートルリュックに対して並々ならぬ愛着があるのが伝わってきます。このファスナーブリーフケース(BW-3)を試作しているときに、木村さんに聞かれたのを覚えていますよ!『これ、兄弟に見える?』って。」
木村
「ふふふ。これ、兄弟なんですよ。」
松下
「ビートルリュックへの思いは既存のブログをご覧いただくとして、今回は割愛いたしますが、兄弟のようなイメージで構築していって、最終的にはいい感じに落ち着いたんですね。」
木村
「そうだね。基本的な構造はビートルリュックを踏襲しつつ、、、細かいところで言うと、大抵の鞄はヘルツ刻印を盤面に入れるけど、思う存分革を楽しめるように盤面ではなくマチの下に入れたり、他にもヘルツにはあまりない分割ポケットを採用したり、いろいろ盛り込んではいるよ。」
木村
「実はこの鞄の試作中に、誰もが知ってるブランドの展示イベントがあったから行ったんだよ。そこで分厚いタウンページみたいなカタログがあったんだけど、100年前の鞄とか見ると、ヘルツの鞄に結構近いところが多々あって驚いた。」
松下
「へえー!100年前の鞄に近い所があるって面白いですね。」
木村
「近代的な鞄になると全然別物なんだけど、昔の鞄とかすごく参考になって。ヘルツにはそういうクラシカルさがあるから、自分としてはそういうクラシカルさと現代の感じも噛み合わせて、さらにビートルリュックと合体させてボストンを作って、でもこのままだと形になりそうになかったから、何とかビジネスサイズに落とし込んだ、っていう所かな。」
松下
「なるほど。最終的に、こうやってヘルツらしさのあるデザインと機能性が両立されているのがすごいなと思います。」
鞄を作るということ
松下
「ビートルリュックの話題が少し出ましたが、木村さんって私の知る限り誰よりも自分の鞄への愛情が強い印象なんですが、めちゃめちゃ好きですよね?決して馬鹿にしているわけではなく、純粋にすごいなあって思っていたんです。その熱意というか、強い思いをもう少し掘り下げてお聞きしたいんですが。WEBサイトやSNSとかも毎日のようにチェックしてますよね?」
木村
「そうだね。革が柔らかくなった後とか、俺が使うのと他のお客さんが使った時のエイジングが必ずしも一緒じゃないのが面白い。」
松下
「なるほど~。使う人によって結構違ったりするんですね。」
木村
「もちろん全部が手作りだし、革っていう素材の特性上、個体差はあるけど。BW-3に限定していうと、これは使い方が手持ちで限られてるから、左右対称な力が加わるから、ある程度想像はつく。でももし万が一、致命的な問題があるようなら、改良する必要がある。物はとにかくいい方向にやるべきだと思うから。だから正直、終わりがない世界だと思う。作りっぱなしじゃあ、ちょっとね。」
松下
「確かに。鞄を作る上では、必ず考えないといけない部分ですね。何年も使っていく中でこうした方がもっと良いんじゃないか、みたいな改善点は出てくるかもしれないですし。」
木村
「うん。だから使っている人の言葉はすごく大事だと思う。定番品として一回出してしまったら終わりではなくて、その後の様子もちゃんと見守りたいっていう思いがあるね。それに、単純にこのバッグが気に入ってるから。使ってくれてるのを見ると嬉しいよ。」
お客様へ一言
松下
「では、そんなお客様へ一言いただけますか?」
木村
「、、、メイドインジャパンも捨てたものではないですよ。」
松下
「ふふふ、格好いい。私メイドインジャパン大好きなんですよ。いいですよね、一個一個作っている人がわかるっていうか。」
木村
「ヘルツはどの店舗も製作風景が見られるから、作ってる人の顔がわかるのは良いよね。別に大型の製造工場があるわけではないから。寿司屋みたいに目の前でヘイラッシャイ!っていう感じ。」
松下
「まさかの寿司屋!でもなんとなくわかる気がします。ヘルツの魅力に直結していると思いますね。
このBW-3については、お客様に何か一言ありますか?」
木村
「この革の張りを自分で育てるっていう、革のエイジングを楽しんで欲しいです。オイルメンテナンス楽しいですよ。臆せずラナパーを入れましょう。後は、、、かっちりきっちり、優しく包みます。」
松下
「何かのキャッチフレーズみたいですね。ありがとうございました!」
~ 次回予告 ~
本店作り手 青木×アオリノハンドバッグ(Q-9)をお送りします。
実はヘルツ内外問わずファンの多い青木。その人気の秘訣が聞ける、、、かもしれません。